オーガンジーと万年筆とインスタレーションのこと vol.1

今回の個展は、作家としての喜びに満ちた展覧会であることを嬉しく感じています。
オーガンジーに万年筆(または筆)で絵を描いて、インスタレーションや平面作品として発表しています。
やりたいことを自分にとってとても自然なながれで作品として表現できて、「私の店で展示して欲しいです」というとてもとても嬉しいオファーをいただけて、全力で期待に応えられるように取り組みました。
万年筆との出会いは、あるイラストレーションの仕事の依頼があった時からです。
「このタッチで、このキャラクターを描いてみて欲しい」と、自分のタッチにこだわらず、自由なタッチでイラストを描くお仕事をお受けしていた時のことです。
自分の学んできたタッチ、仕事で描いてきたタッチ、画材、いずれとも違う参考資料から、「線を探す」ことを学びました。
その時に得た一つの答えが、「万年筆の線の面白さ」でした。
それから、スケッチブックと万年筆と歩きやすい靴で外へ飛び出して、なんでもいいから目に入ってくるものをたくさん描きました。
近所の文房具店、営業しているのか廃墟なのかわからないスナック、名前もしらないツタや花。
文房具店のおじさまには、探偵かなにかではないのかと問い詰められて、私は絵を描いて発表している作家で、趣のある佇まいに惹かれてスケッチさせてもらっていますと弁明すると、どこが魅力的なのだと切り替えされて、ひさしのデザインとか素敵ですよね、と話すと、そうだろうそこは新築の際に大変こだわったところでね…と少し長いおじさまの思い出話を楽しく拝聴することになるなんて、貴重な体験もしました。
スケッチブックも仕事で使っていたペラペラのものだと、屋外スケッチには不向きだと気づき、(急な雨に濡れやすく、立ったまま速描きするときは芯がなくて描きにくなど)かといって新しく買うと安くはないし、種類も様々で迷っていました。
そんなとき、近所にある個人経営の小さな画材屋さんへたまたま行くと、すっかり黄ばんだスケッチブックの安売りと出会いました。
でも、壁紙みたいにエンボスがある、水を弾くコート紙で、絵を描くような紙ではなく、不思議に思って店主の女性に質問してみると、夫が生きている時、デザインの仕事をしている方にニーズがあって仕入れた紙で、今は倉庫に在庫として残って困っていたのを、もったいないからオリジナルのスケッチブックとして作り直して売っているんだよ、安いでしょう、いい紙でしょう。と話してくださいました。
「スケッチをうまく描くためのスケッチブック」ではなく「店主のエピソードの詰まったスケッチブック」に魅了されて、二冊ほど買いました。
となりのとなりのとなりの家、自分の住んでいる町のあちこちに、人々のあたたかい営みが、大切に大切に続いている。
絵を描くことが私の人生なら、人との縁を大切にしよう。道具もモチーフも、真心をわけてもらおう。大切に描いていこうと、このころに自分の進みたい方向がぼんやりと見え始めました。
2015年に勤めのデザイナーからフリーランスのふりをした自由な人になった頃のことです。
私のスケッチ作品の紙の端っこが日焼けしているのは、これが理由です。
この流れの先に、那覇に滞在して歩き回ってスケッチした作品をそのまま個展で展示するとういう、セルフアーティストインレジデンスがあります。
(貴重な沖縄でのご縁のお話なので、また改めます)
つづきは、紙からオーガンジーへの転向について書きたいです。