2016年、改装前の京都市美術館で開催された美術展に、初めて万年筆一本で描いた絵画作品を発表しました。
水彩やアクリルガッシュで人物を描いてきた私に、毎年丁寧なアドバイスをくださる方が、新しい試みを面白がってくださり嬉しかったです。
ただ、額にもパネルにも仕上げていない、紙に描いたままを貼っているのではもったいないね、とお言葉をいただき、その後随分悩みました。
万年筆一本、どこまでも歩いて、軽い軽い身体で描くこと自体が、すでに表現の一部に入っていたので、大きな額に入れてしまってはフットワークの軽さが消えてしまうし、パネルに水張りすることだって同じです。
答えはシンプルに、紙がだめなら布はどうだ、と、同じ美術展で2017年に、ポリエステルとオーガンジーを二枚重ねにした絵画インスタレーションを展示発表しました。このスタイルからの展開が、現在のスタイルへと進んでいます。
小さくたたんで軽く持ち運べて、様々なところに違和感なく展示できて、立体的にもできることで空間がいかせる作品。
「このモチーフじゃないと描けない!」「このスタイルで描きたい!」「この道具が絶対いる!」「この条件じゃないと展示できない!」
そのうちのいくつか、ひつつずつ手放ししていくと、どうなったかというと、部屋が空っぽになりました。
集めて使わないのに囲っていた画材や捨てきれない書類やなんだかいろんなもの。
随分たくさんいただいて、持て余していた画材は、もちろん捨てることなんかしません。
心を込めて、作品を作りました。
作品を作るから使うのではなくて、いただいた方が好きだから、譲ってもらった画材が喜ぶような作品を作ろう。これが自然な流れです。もちろん使いきれない画材や道具もありますが、嬉しいことに、バトンタッチできる方がいてくださいました。
今回の個展でのハードワークで、相棒の万年筆さんのインクが出なくなってしまいました。
自分でわかる範囲で修理をしている間も、絵を描き続けるために、新しい万年筆の買い時なのかと迷い出して、そうしていつのまにか、自分のなかに手放したはずの不要なこだわりを見つけてしまいました。「万年筆じゃないと描かない!」
ごく自然な理由で、今度はオーガンジーに筆で絵を描いてみました。
描けた、描けなかったではなくて、水彩画をかけるようになりたくて、やたら難しいテクニック本や、習いに行った先生が丁寧におしえてくれたポイントを、手が覚えていて楽しくて夢中になって描きました。
その筆はお世話になった方が数本まとめて譲ってくださったもので、その時の思い出と、たっぷり水をふくませた描き方は優しい先生の筆使いをゆっくり思い出す、描きながら、描くよりも感謝のなかにいました。
私が学んで習得したのではなくて、見せてもらった景色を、思い出して喜んでいるうちに、絵が浮かび上がってくるのです。
次は、ただ布をぶら下げるだけなのが現代アートであるのだと、言い張るわたしのインスタレーションについて書きたいです。